大西 将美


おおにし まさみ(1945/02/15)



主な作品 1/35ナポレオン(R)、パンサー(R)
ワールドタンクシリーズM24(新ロゴ)
初期MMホワイトパッケージのほとんど
ポケットミュージアムシリーズ
1/100ミニジェット
アポロ1号ジュピター2号
カタマランデラックス(新ロゴ)
ワンカットイラスト、線画イラスト等多数
フジミ1/76ジオラマセット


タミヤのパッケージと言えば白のバックに精密画のイラストで、ホワイトパッケージと呼ばれ世界中の人々に親しまれていますが、そのホワイトパッケージの生みの親が誰あろうこの大西画伯です。

タミヤの商品開発ペースは、折からのプラモデルブームに乗って飛躍的に伸びますが、ボックスアートをすべて外部に発注していては追いつかなくなってきました。ボックスアーティストは芸術家です。中には頼んでから1年経っても「構想が湧かない」と手さえ付けてない人も現れ、キット発売の律速段階がボックスアートになる物も出てきました。そういった訳で、社内でのイラストレーター養成の気運が高まったところで、初の社員ボックスアーティストとして小松崎先生の紹介で入社したのが大西将美画伯です。当時21歳、1966年のことでした。

ご本人が回想するところによると、「社員じゃなければ、あの技量の絵では商品にさせてもらえなかったろう」と謙遜なさいますが、とにかく殺人的な量をこなされました。最初からいきなりボックスアートとはいかず、まずは線画イラストで広告や設計図でデビューします。皆さんが意識してなくても「ああ、あの絵だ!」と思い当たる絵は一つや二つでは無いはずです。その後ボックスアートの脇の兵士(戦車兵)ワンカットイラストでカラーデビューを飾り気運を高めながら、1/50ポケットミュージアムシリーズのクルセイダー(白箱)で輝く独り立ちを果たします(ちなみに1974/01号ホビージャパンの特集では、中西氏のインタビューに大西さんはデビュー作が白箱1/35キングタイガーと答えていらっしゃいますが、先日、本人に確認したところ、クルセイダーと言明されました)。そして斬新な設定で強烈な印象を残したリモコン1/35ナポレオンで、ついに背景付きボックスアートの完全デビューを飾りました。

順風満帆のスタートに見えましたが、大西画伯本人はある一つのことで悩みに悩んでいらっしゃいました。当時の少年達には、にわかに信じ難いのですが、それは「背景が描けない」という事です。対象物そのものは何ともないのですが、いざ背景を描く段になると筆が止まってしまうのです。本人の自意識過剰もあったと思うのですが、結果として大西画伯の背景付きミリタリーボックスアートはわずか3点に終わってしまいました。余談ですが、ご本人はつい先日まで背景付きボックスアートはナポレオンとパンサーの2点と思い込んでいらっしゃいました。当研究室助手が直接お会い出来た時に「あの〜、ワールドタンクの新ロゴM24も大西さんではないでしょうか?」と伺っても「覚えて無いなあ」との返事。「これこれこんな感じの絵なんですが...」といくら説明しても「そう言われると描いたような気もしてきたけれど、思い出せ無いなあ」ということで、ご迷惑も省みず先生の自宅にM24のボックスアートのカラーコピーを送ったところ「う〜ん、30年ぶりに思い出しました。確かに私の絵です。それにしても凄い物持ってるんだねえ。」とのお言葉を頂きました。

1960年代後半と言えば、何と言ってもスロットカーブームがあります。特にアメリカCOX社のキットは1ランク上を行っており、高級感あふれる箱も羨望の的でした。タミヤもこのロゴマークに習い黒丸タミヤのいわゆる中期ロゴマークを作りますが、ボックスアートも思い切って白バックの精密画に方向転換します。それまで日本の模型界では白バックは紙質の経年変化で黄変することからタブー視されていましたが、技術革新がそれを救い、当時デザイン担当の田宮督夫氏が勝負をかけました。そして何よりこれを喜んだのが大西氏本人で、余計な事に気を取られず思う存分対象物に筆をふるえました。結果は大成功。ホワイトパッケージと呼ばれ、その後タミヤスタンダードになったのは皆さんも良くご存じでしょう。

大西画伯の名を世に知らしめたのは1/35ミリタリーミニチュアシリーズでしょう。ドイツ戦車兵セット、シュビムワーゲン、アメリカ戦車兵セット、二号戦車、三号戦車、88mm砲...枚挙にいとまがありません。その精密な画風は、模型製作の、そして塗装の一番の手本でした。ジオラマの構想の為、白バックに背景を書き加えた記憶、あなたはありませんか?

全く知らないことでしたが、大西画伯は意外に早く1973年にはフリーとして独立なさいます。もちろんタミヤの仕事も続けられますが、やはり何と言っても衝撃的な絵はフジミ1/76ジオラマセットNo.1「バルジ大作戦セット」でしょう。何の前情報も無く、いきなりおもちゃ屋の店頭でそれを見た当時小学生の助手は、後ろ姿の大きなキングタイガーや、手前の迷彩服を着たドイツ兵、奥の冬季迷彩M4シャーマンに激しい衝撃を受けました。それから助手が1/76にはまって、しばらく浮気していったのは、また別の話です。

ちなみに、とっておき秘密話を一つ。タミヤMMシリーズNo.19ドイツ戦車兵4体セットは言わずと知れたNo.1の増補改訂版です。No.1のボックスアートを手がけた大西画伯のフリー独立と、このNo.19の発売時期が微妙に重なり、なんと追加の4体目は大西画伯が描いてないそうです。つまりこのボックスアートは大西画伯と当時のタミヤ社員イラストレーター(島村さんでしょうか?)との合作だそうです。ところで合作話は他にも多数あることが分かってきました。いずれも興味深いエピソード付きですので機会を見て紹介します。