T-235 ロングトム(ワールドタンクシリーズ)

リモートコントロール版 1963年2月発売 発売時価格300円。ボックスアートは小松崎茂画伯。
シングル初版 1963年6月発売 発売時価格100円 シングル2版 1967年発売 発売時価格100円


突然、15年近く前の宿題をやります。ワールドタンクシリーズのロングトムです。

1962年1月に1/35パンサータンクを発売して起死回生の大ヒットさせたタミヤですが、2の矢、3の矢を忘れなかったところが流石です。それは年長者対策と年少者対策でした。小学校高学年から中学生以上の年長者には定価が1300円もする1/21M4シャーマンを1963年3月に発売し、年少者にはノンスケールの100円タンク、ワールドタンクシリーズをスタートさせました。ちなみにワールドタンクのシリーズNo.1とNo.2にあたるM-42ハンターとSU-57スターリンのシングル初版は1962年12月に定価150円でスタートしましたが、1963年6月に100円に値下げされました。

そんな中ワールドタンクシリーズのリモコン版(ベビーリモコンシリーズと命名)として1963年2月に最初に発売になったのが、このT235ロングトムです。TKK13モーターを2個、直接車体下部側壁にネジ留めする大胆な構成で、超信地旋回も含む本格的な操作が可能でした。さらに4ヶ月後の1963年6月にはシングル版も発売されました。ボックスアートは小松崎茂画伯の迫力あるもので、リモコン・シングルとも同じボックスアートが使用されました。なんて、いつもの様に書いてますが、これって全て50年以上前の話になってしまったことに愕然としませんか?(笑)

当研究室助手はこのキットに深い深い思い出があります。田宮模型歴史研究室開設のきっかけにもなったキットなんです。

時は1993年の秋でした(もう20年以上経つんですね)。当時、ホビージャパン誌に毎号広告を出していた某絶版模型通販ショップで何かを購入した折に「今度こういう同人誌を作られた方がいらっしゃるんですよ」と同封されてきたのが同人誌『プラモデル・レテ』の告知チラシコピーでした。それは絶版模型に特化した同人誌だというのです。「!こんな本を!しかも個人で!!」すぐに購入を希望する旨の手紙を著者に直接出しました。住所は意外にも近所で、我が家から電車で3駅程の個人宅でした。

程なく送られてきたこの本は、私の想像をはるかに超えていました。絶版となった古いプラモデルのパッケージと組み立て説明書の複写、そしてその詳細な解説の本だったのです。今となれば大手出版社からそういった類の本はカラー写真満載で何種類か発売されていますが、当時は全く無く、まさにパイオニアの本でした。ウィンドウズ95も出ていない時代ですので、ホームページどころかメールというツールさえも皆無に等しい時代です。もちろんこの「田宮模型歴史研究室(1998年開設)」も存在していません。

熟読すると感動は増すばかり、何と言ってもその解説文の内容でした。タミヤだけでも1/21M4シャーマン、クルセイダー、1/35サラディン、レコードカーブルーバードを取り上げ、他社製品未含めて合計36点ものキット紹介です。その一つ一つの解説が豊富な知識とプラモデル愛とウイットに富んだもので、しかもいわゆる高額お宝キットを狙った「こんなの持ってるんだぜ、どうだ羨ましいだろう」といったものでは全くなく、チープキットも分け隔てなく同格に扱っています。当時はプロの出版社以外の装備では印刷技術が低く、パッケージをそのままコピー印刷するとグラデーションが出なくて潰れた印刷になってしまうのですが、リコー社の新製品の網掛け印刷で当時としては画期的に綺麗な印刷になっています。また、同人誌にもかかわらず、掲載にあたって全ての模型メーカーに許可取りまで試みてありました。同封されていた著者直筆の長文の手紙を拝読し、書かれていた番号におそるおそる電話を掛けてみました。「一度お会いしませんか?」

時に1993年12月のとある週末、先方にはご家族がいらっしゃるのでお昼時は避けて12:30にアポを取り、話のネタにと自宅にある手持ちの絶版キットを入るだけ手提げ袋に詰め込んで訪問しました。インターネットやメールもなかった時代、こういった絶版プラモデルを集めている知り合いは周りには皆無、模型雑誌の売ります買います欄で往復はがきや返信用封筒を入れての地道な活動がメインでした。「ああ、初めて同好の士に会えた」の思いで、あっという間に20年来の友人に再会した気分になり、お互い持ち寄ったキット(先方は自宅から無尽蔵?に出てくるキット)をサカナに話が進み、結局奥様の手料理の夕飯は頂くは、お酒もごちそうになるはで、家をおいとましたのは26:00(!)頃だったかと思います。これが現在のUMA動く模型愛好会世話役の一人「ねこにいプロダクツ・オヤヂ博士」との出会いでした。

実はオヤヂ博士さんは幼少の原体験でタミヤのワールドタンクのロングトムを3回も作った経験があり、一番思い入れの深いキットの一つなのですが、当時はすべて処分されてしまい、プラレテで取り上げたのは同じワールドタンクシリーズのクルセイダーだったのです。表紙に手描きイラストでも紹介されたオヤヂ博士のワールドタンクシリーズへの熱い思いはビンビン伝わりますし、本文にもかつてロングトムを所有し、いかに思い入れが深いかが書かれていました。当時、当研究室助手は1個だけでしたがこのワールドタンクシリーズのロングトムの2版を所有しており、手提げ袋の中から「実は私はこんなものを持っておりまして・・・」と取り出したのでした。

「!!!!」オヤヂ博士の興奮は極限に達し「コレです!コレです!いや〜!懐かしい!素晴らしい!!」。しかしオヤヂ博士が出してきたキットの中にタミヤ1/35スパイダーがあったのです。「!!!!!!!!!」今度はこちらが絶句する番でした。当時、当研究室助手のタミヤコレクションはコンプリートにはまだまだで、その中の最大級調査項目の一つがスパイダーでした。繰り返しますが、インターネットオークションやモデラーズフリマも無い時代、初めて目の前にしたのです。何度も何度も手に入れる夢は実際に見てきましたが、現物のボックスアートを見たのも初めてでした。これを筆頭に、お互い持っているものを見せ合っては「おおおおお!!!!!」と言い合うという、ハタから見れば怪しげにしか映らない光景だったと思います。

奥様の手料理にお酒まで出て来て、お互いに最高の気分になり、てっぺん(24:00)が近づいた頃に、ふと、満を持したようにオヤヂ博士がおっしゃったのです。「このスパイダーとロングトム・・・・・交換しませんか?」「!!!!!!!!!」

それはまさに禁断の語句でした。思いもかけなかった提案です。お互いに持っているのは一つしかありませんので渡してしまうとそれっきりです。二度と手に入る保証はありません。しかしスパイダーは欲しい・・・、しかもオヤヂ博士もこのロングトムにかける思いが痛いほどわかります。「な、なんとおっしゃいました!??いやいやいや・・・で、でも・・・」即答はできません。しばらく悩みます。真剣に悩みます。アルコールはしこたま入っていますが悩みます。どれくらい間があったのかは定かではないのですが、私からは「よ、よろしいんですか!確かにこのロングトムは一つしか持っていないのですが、あ、あなたが持っていた方が、このキットも喜ぶと思います!」と意を決して話し、お互いに震える手でキットを差し出し感動的な1対1トレードが成立しました。当時としては本当に自分にとって大きな決断でしたが、コレでよかったんだとジワジワ余韻をかみしめようとした時、傍で一部始終を見ていた奥様が一言おっしゃいました。「何をやってんだか、30歳前後のいいオトナが100円やら150円のプラモデルを交換するのに大袈裟な」

そこで二人はお互いに大笑いでした。誤解のないように、奥様はオヤヂ博士の趣味には今も大変理解が深く、暖かく見守って下さる方で、だからこその愛のある発言でした。その後、折に触れお互いに連絡を取り合い、初めて私が「田宮模型歴史研究室」というHPを立ち上げるとお伝えしたら大賛成して下さり、直後にご自身も「プラモデルの王国」を立ちあげられ、さらにツインスターメーリングリスト、水モノオフ会、動く戦車オフ会、UMA(動く模型愛好会)メーリングリスト、と現在につながってきます。

といったわけで、全くプライベートなお話にお付き合いくださいましてありがとうございました。

(2014/02/01)


伝説の同人誌プラモデル・レテ(絶版)!表紙は手描きイラストです



その後、縁あって当研究室助手は時間を掛けて新たにロングトムの2版、リモコン版、初版と入手しコンプリートしていきます。そして2000年5月の静岡ホビーショーで「可動戦車模型愛好会」のブースに展示するため、リモコン版のジャンク品をレストアしました。ちなみにこの時の静岡ホビーショーで「田宮模型全仕事1」が会場限定先行発売になっています。

未組み立ての完品も所有していましたが、当然もったいなくて作れません。そこでこういったジャンク品の再生というのもこの趣味の醍醐味になります。今となっては記憶が定かではないのですが、完全じゃない2個のジャンクから「ニコイチ」で再生したのでしょうか?砲身支え部分のパーツの成型色が微妙にダークグリーンがかっており、本体のオリーブドラブ色と色目に差が出ています。砲身はお約束で微妙に左右がずれて接着されていたので、エイヤ!とカッターナイフを入れて分解し、接着し直しました。

レストアのメインは動力の再生です。TKK13モーターはオリジナル中のオリジナル、サーモンピンク色の初版です。そのままではさすがに動きませんでしたが、分解して固まったグリスを取り除き、新しいグリスでブラッシュアップしてやるとほぼ100%復活します。そして問題のモーターコードですが、秋葉原の電気街で購入したコネクター接続としました。ここだけは思いっきりオリジナル無視ですが、完成後の取り回しや、動作の確実性から選択しています。静岡ホビーショーの2週間ほど前に開催された「可動戦車愛好会東京オフ会」に出したのですが、調整不足でスムーズに走りませんでした。

原因はアイドラーホイルにあります。そのシャフトが左右独立しているのですが、支えが甘くグラグラし、ゴムキャタピラのテンションに負けてしまっているのです。そこでプラバンで簡単なスペーサーを作りはめ込めばガッチリ固定され、スムーズに動くようになりました。あとはやはり無塗装ではまずいかと塗装を施しました。この完成品は、のちに「タミヤの動く戦車プラモデル大全」でも改めてスタジオ撮影され、完成品6種類フルコンプリートの揃い踏みとなりました。もちろん全て当研究室所有のものです。あまり歴史的価値の無い内容の更新になりましたことをお許し下さい。

(2014/02/01)


レストア直後の状態。成型色が違います。 何を思ったか瞬間接着剤で作り、白濁(汗)
東京オフ会で記念撮影。モーターの色に注目です! 問題のアイドラーホイルシャフトのブレです。
プラバンで簡単なスペーサー。これで完璧です。 とりあえずサーフェイサー吹きで色の違いをカバー
箱絵のイメージで最初にこの色にしたのですが
さすがに明るすぎました
結局、当り障りのないオリーブドラブに
レベルカラーの12番がお気に入りの色です。


「タミヤの動く戦車模型大全」のためにスタジオ撮影。車体下部共通のT92デストロイヤーと。
ワールドタンクシリーズ全6種揃い踏みです。この金型は1970年初めにインドに渡り行方不明です。
これだけ全て揃えても合計600円でした!
池袋東武百貨店「タミヤモデラーズギャラリー2006」にて。田宮模型歴史研究室の紹介コーナーが作られました。