サンダーボルト

発売時期 発売時価格
1961/06 ¥250



大変長らくお待たせしました、本格的に研究再開です。当研究室は「田宮模型全仕事」の編集のためおよそ1年間にわたって更新が滞っておりましたが、これからしばらくはその編集の課程でまとめた情報を中心に更新していきます。今回取り上げるのはプラスチックモデルメーカーに転業したタミヤの最初期のキット「サンダーボルト」です。

発売は1961年6月ですからほぼ40年前です。あのパンサータンクの発売より半年も前といえばいかに古いかがわかっていただけるでしょう。1960年5月にタミヤは初のプラスチックモデル戦艦「大和」を発売しましたがライバルのニチモに敗れ大赤字を抱えます。その後しばらく金銭的に立ち直れず、時代と逆行して木製模型に戻らざるを得なかった状況は「田宮模型の仕事」に詳しいのですが、苦労して製品化した発泡スチロール製キット第1作の「ハイスピード」ボートの発売も同じ1961年6月ですから、まさにこの「サンダーボルト」は苦しい時代の産物です。

結論から言えばこの「サンダーボルト」はタミヤにおいて戦艦「大和」に続く、輝くプラスチックモデル製品第2作なのです。処女作戦艦「大和」の営業的失敗で後が無くなったタミヤは、金型に莫大な初期投資を必要とするプラスチックモデルの第2作を打ち出せず、箱替えの戦艦「武蔵」(1960/10)や玩具メーカーから払い下げてもらった金型での「ベビートラック」(1961/05)の発売でかろうじて“新素材”プラスチックモデルへの転換の意志を繋ぎ留めます。そしてこの間は戦車や自動車の木製模型の新製品を続々と発表し続けました。日本模型新聞の1961年1月1日号には田宮模型教材社田宮義雄社長の言葉として「...木製業者にとっては現下のプラ攻勢によって、岐路に立たされていると申し上げても過言でありません。...どうか一九六一年も木製模型に大いに御期待されんことをお願い申し上げます...」とあり、ギリギリのところにある緊迫感が伝わってきます。

そして戦艦「大和」の発売からほぼ1年後、このサンダーボルトは世に発表されます。完全なタミヤオリジナルの第1作である戦艦「大和」に対して、失敗は全く許されない状況での第2作がコピーキットになってしまったのは初期投資額を考えると無理からぬ話です。この元になったのはモノグラムの「firebolt」です。このあたりマルサンのノーチラス潜水艦と相通じる物があるのですが、タミヤは駆動系に独自の大幅な改良を加えました。モノグラムのオリジナルはタイヤもプラ製だったのですが、グリップ力が格段に違い何よりリアルなゴムタイヤに替えます。さらにオリジナルはコロ走行あるいは固形燃料による噴射(!)を推進力としているのですが、こちらは日本が誇るTKKマブチ15モーターとギアボックスを使っての駆動形態に改良されています。当時の広告には「プラスチックのホイルキャップにゴムタイヤがはまりスタイルの良い足まわりです。」とオリジナルからの改良(当時殆どの子供がその存在さえ知らなかったでしょうが)を高らかに歌い上げ、「TMK自動車ギヤー、マブチモーターNo.15単3乾電池2本のトリオで動力面は完璧です。」と木製模型で培った部 分の自信を伺わせます。

実はタミヤがこの「firebolt」を模型化するのは1年越しの思いがあります。それは1960年9月に発売になった木製模型「ファイヤーバード」に現れています。既にオールプラスチックモデル戦艦「大和」を世に出した後ですから、この素晴らしいデザインの「firebolt」も当然同じ形で開発されていたと思われますが、前述の理由でそれはかなわず、やむなく木製模型でそのものをキット化してしまったのです。曲面加工の難しい木製模型ではその再現性は論を待たず、おそらく忸怩たる思いでの発売となったのでしょう、箱絵にもそれは現れています。この木製模型「ファイアーバード」は残念ながら当研究室では所有しておりませんが、静岡のタミヤ歴史館に箱、完成品ともに展示してありますし、「田宮模型全仕事2」のp154に紹介されていますのでお持ちの方はご覧下さい。

話を「サンダーボルト」に戻しましょう。「田宮模型全仕事」という本はキットの“完成品”と“ボックスアート”をすべて載せることにこだわった本ですが、このサンダーボルトの“完成品”が静岡のタミヤ歴史館にありません。そこで当研究室所有のキットを私、助手が作ってしまいました。平野編集長の「当時の様子を伝えるため塗装されて無改造で」という基本原則を守るはずでしたが、ボディー上下の合わせ部分にデカールを貼らなくてはいけないこともあり、パテ埋めとサーフェイサーを吹いてしまいました(この点、平野編集長の作品であるp147のサーブ1はオリジナルを完全に残し繊細な塗装で仕上げた物でお見事の一言です)。

締め切りギリギリのある晩、趣旨に賛同し自らの所有キットを快く組んで下さったねこにいプロダクツの高見氏が、これまた歴史館に無い「ブルーバード」を持って訪ねてこられ、目出度く2台並べての記念撮影となりました。その後スタジオ撮影を終えて次の「田宮模型全仕事3」の打ち合わせで静岡を訪問した時に助手自らが持っていき、歴史館のショーウインドウの片隅に飾らせていただきました。いくばくかのお役に立てたのではと感じる至福の瞬間です(*^_^*)

ちなみにキット製作に入っていたときに「田宮模型全仕事2」のページ割りを知らされ、この「サンダーボルト」「ブルーバード」の完成カラー写真が他のキットに比べてあまりにも大きいので平野編集長に抗議(?)したのですが、「見開きで一つのシリーズにこだわりたい。この本はあまりにも沢山の情報を詰め込んでいるのでページレイアウトに各所で無理をしているんですが、このページだけは編集長としての良心としてこだわりたい」と言われ恐れ入った次第です。あの〜、といったわけで、別に身内が作ったから大きな写真になったわけではないですからね〜。

ちなみに現代のミニ四駆やダンガンレーサーでは立派なコースがありますし、古くはスロットレーシングカーも素晴らしいコースがあったのですが、この直進一本槍の突貫小僧スピードレコードブレイカーの遊び方としては、糸を使ったものが紹介されています。実際にキットには左側面に回転用、車体下部に直進用の糸通し穴がモールドされています。ホントにこんな風に遊んだ子供が何人いたのでしょうか?興味深いところです。


全景。本体の成形色はオレンジ 原型となったモノグラムのファイアーボルトと並ぶ
左のタミヤはスジボリが凸モールド。車体下部に注目。 「作るぞ!」最初の部品をニッパーを使って切り取る
完成!30分とかからない よせばいいのにサーフェイサーとパテ埋め
前面インテークはしっかりマスキング このデカールは絶対に使えないと思ってましたが...↓
‘60テイスト(?)で箱絵を参考に塗装。 完成!デカールもすべて使えました
上面から見ると想像と違うシルエット プラモデルの王国の王様が青い車を作って...
ここが聖地静岡タミヤ歴史資料館 収まるべきところに収まった安堵感。

組み立て説明書イラストより。す、素晴らしい!