1/35キングタイガー



・手前のマシンガンを撃つ兵士など3体削除
・その代わりに3本の溝が地面に加わる
・車体全体迷彩塗装の変更
・ターレットナンバー「814」→「103」
・ターレットナンバーの色も黒に
・スプロケットホイルが18枚歯の試作型(および後期型)から9枚歯の標準型へ
・バックのKV−1がクロムウェルへ、黒煙も追加
・師団マークの変更
・前方機関銃の描き込み
・ボッシュライトの描き込み
・コマンダーズキューポラの形状変更
・砲塔にベンチレーターの追加
・砲塔上部フックの長さが短くなる
・ペリスコープにガラスが入る
・後部アンテナの角度、バックの黒煙の表現方法の変更
・キャタピラの浮き具合の位置
・補助キャタピラは変更無し

少なくとも15ヶ所の変更点があるのは驚異的で、画伯の意地(?)も感じられます。資料の質と量が現在とは比べ物にならないほど不足していた当時に「ボルトの本数がわからないと絵に取りかからない」と同業者に言われる程細部にこだわった(本人は謙虚に否定してらっしゃいますが)画伯のこと、過去の作品の誤りはどんなに小さな物でも修正したかった、と言うより直さないと購入者に失礼だと思ったそうです。

まず最初に目につくのは、手前の3体の兵士が削除された事です。もちろんキットにはこの3体の兵士は元々入っておらず、タミヤからの要請が伺えます。しかしこのボックスアートの構図から考えても兵士の削除はなんとも惜しく、代わりに3本の轍(わだち)が描き込まれました。新資料により迷彩塗装の色も変更され、車体ナンバーも史実に基づいて修正されました。

スプロケットホイル(起動輪)は試作タイプの18枚歯の物が描かれていましたが、標準タイプの9枚歯に直されました。これはキットに合わせた物で、当初は18枚歯でキット化され、キット自体がマイナーチェンジされて9枚歯になったので(キットナンバーもMT220→MT246に変更)、こちらも修正されました。しかし砲塔に付く予備キャタピラは、初版のキットが試作型のキャタピラだったにもかかわらず、ボックスアートは当初から標準型でした。

バックで燃えている車両がKV−Tからクロムウェルに代わったのは「だってキングタイガーの88mm砲に撃たれたのなら、もっと激しく壊れた方がいいと思って」だからだそうです(永遠のヤラレキャラですなあクロムウェルって)。そう言えば燃え上がる黒煙もKV−Tよりかなり多くなってます。

車体上部の描きこみは当時画伯が足で稼いだ新資料に基づくもので、入念にチェックされより正確になっています。前方機関銃のMG34も通常型と車載型の違いを描き込んであります。意外に気づかないのはキャタピラの垂れ下がり具合まで直してある事です。手前の3体の兵士を削除された事により躍動感が消えがちなところを、スプロケットホイルが回転して前進中のキャタピラのテンションを考えての描き込みです。当時、走行中のキングタイガーの写真は日本で一般に公開されておらず、これなどは博物館の写真を見ただけでは決して描けないもので「実際動くとどうなったか?」にこだわった高荷画伯の真骨頂といったところでしょう。

ここに非常に興味深い作品を紹介しましょう。それは1972年に発売になった画伯初の戦車作品集「電撃!ドイツ戦車軍団(主婦と生活社)」のキングタイガーです。これは基本的にタミヤとニチモのキットのボックスアートを主体にしながら、戦車の上部構造物(OVM)や部隊編成まで高荷画伯が一人でイラストを使って解説した力作です。普通、模型メーカーに作品を納入すると、基本的に原画は作者に帰って来ない為、修正しようと思っても出来ません。作品集の出版といっても、過去の作品をそのまま載せるのが普通と思われる中で、画伯はタミヤから一旦作品を預かり加筆修正をします。これは時期から言って大箱と小箱の中間にあたり、前方の3人の兵士はそのままなのにスプロケットホイルやターレットナンバーが直っています。ここからもタミヤ側の事情ではなく作者側でより正しい絵を出版したいという意図が伝わってきます。余談ですが、この時砲塔キューポラに対空機銃架が追加して描き込まれたのですが、小箱になる時にはキットに入っていないという事で再び削除されてしまいました。